再建の依頼内容
東北の山奥にある酪農組合で、
100頭前後の乳牛を飼育していた。
JAから3億円を借り入れたが返済が出来ないので、返済を待ってもらう交渉を頼まれた。
関東大震災直後で、原発の風評被害もあり、
売上も減少。
厳しい生活を強いられていた。
経緯
夫婦と長男に親戚を加えた4名の組合組織で経営しており、過酷な生活を強いられていた。
牛の世話は年中無休でどこへ行くことも出来ない。
それにも拘らず1ヶ月の総収入は40万円に満たないのである。
「牛乳は水より安い」と嘆いていた。
金利すら払えない状態
ここで耳を疑うような言葉を聞いた。
奥さんは「月に3万円あればやっていける」という。
しかも、主食や副食ではなく「醤油とか砂糖とかの調味料など、自分で作れないものだけで良い」という。
お饅頭はあんこから作ってしまう。
豆腐も、牛乳で豆腐のようにつくってしまう。
「おかずは山にいくらでもある」という。
びっくりし感激した。
このような家族だからこそ、この山中で生活出来ることであり、普通の人間に当てはまらない。
当然3億円の返済はおろか、
金利すら払えない状態が続いていた。
借入金返済減額交渉
山奥のため自宅に泊めて頂き、ほぼ徹夜で交渉資料を作成、翌日、組合長であるご主人とJAへ出かけ、返済についての相談をした。
しかし、おかしなことだが借りている方が高圧的な態度なのである。
「返さなくても良いと言った」と主張している。
そんな馬鹿な話は通用しないことだが、真面目に怒っているのである。3億円も借りていながら金利すら払わず、逆に文句をつけているのである。
応対に出たJA組合長からは私に対し、「考え方を改めるよう教えてやって欲しい」と頼まれる始末である。
また「片目をつぶり、尚且つ両目をつぶっている」とまで言われた。
私もどんな事情があったのか分からないので、ご主人を抑えて一旦帰り、全員で話し合うこととした。
再建方針から倒産方針への変更
酪農の仕事を続けていく限り、長男はずっと独身でいなければならない状況だった。
4人で40万円の収入で生きていくことも困難と思われた。
そこで私は、組合そのものを閉鎖する事を提案したが、そうなると自宅も競売処分となり、住む所が無くなることを恐れていた。
しかし、組合長の飼育技術は優れており、100頭の乳牛は価値があった。
私は乳牛を含め、飼育技術全てを提供すれば円満に解決するかもしれないと判断した。
そこでJA対し虫の良い話だが、誠意を尽くし今後の生活応援を頼み込むこととし、翌日、ご主人を連れて行くと喧嘩になり話にならないので、長男と同行した。
組合閉鎖と借り入れ金の処理交渉
前日家族で話し合い、JAに対し次の3点をお願いした。
- 組合を閉鎖し、土地、牛舎、乳牛、設備全てを譲渡する。しかし住宅だけは残して欲しい。
- 長男をJAで採用して欲しい
- 乳牛の世話などは引き続きやらせてほしい
交渉の結果
随分自分勝手なお願いだが、さすがにJA組合長は親切な方で、全て要求を受け入れてくださった。
組合長は、そのままJAの施設として働かせてもらうことになり、
長男はJA社員に採用して頂いたのである。
自宅もそのまま残していただいた。
こうして酪農組合の名前は無くなったが、安定した生活をすることが出来るようになり、
第二の人生を踏み出すことができた。
「倒して新しい人生を産む」例である。
再建コンサルタント:古川益一のコラム
鬼の心、人の心、神の心
人間は3つの心を持っています。
つまり
「恨み憎む鬼の心」
「自分中心に考える人の心」
「思いやりを持って相手を助けようとする神の心」
この3つの心が出たり入ったりくるくる回るのが人間です。
交渉することは、
「鬼の心から人の心そして神の心へ引き上げていく」
ことであると思います。
再建に際し絶対的に言えることは「関係者には、神の心、即ち思いやりの心を持って頂かなければならない」ということです。
そのためには、どんな事があっても争いは避け、自分が悪かったという態度で臨まなければなりません。
全ての関係者に思いやりの心が芽生えると、どんな難題も自ずと解決していくことと思います。
災難に逢う時節には災難に逢うがよく候
死ぬる時節には死ぬがよく候
これはこれ災難をのがるる妙法にて候
(良貫)