依頼内容
住宅ローン未払いにより、家、店舗が全て無くなることになり、途方に暮れている。
少しのお金を残し、兄弟親戚に返済したいが、銀行が強硬で一切聞いてくれず無一文で放り出される状態だ。
なんとか、
「円満な話し合いでお金を残しながら閉鎖したい」
の切実な依頼だった。
経緯
ある都市の酒販組合の顧問を依頼され、酒店の経営相談に乗っていた中の一件である。
酒販の規制緩和によりスーパーで酒類を扱うようになって以来、小さな酒店はどんどん潰れていった。なにしろ小売店は卸会社から買うよりスーパーから買った方が安くなってしまったのである。
250店程の小売店が加盟している組合長からは、
「私の組合から一軒も自殺者を出したくない」
との本当に深刻なものだった。
ローン返済は1年も滞り、売却して返済することを約束
そこで、定期的に経営講座などを開いて酒店の生き残り戦略を講義させて頂いていた。
その中の一小売店であるN酒店は好景気の時に6,000万円もの投資で店舗と住宅を新築、そのローンが負担となりやり繰りが出来なくなっていた。
収支状況を見るととてもやっていけない。
既にローン返済は1年も滞り、売却して返済することを約束させられていた。
もちろん売却金よりもローン残高が多く、
1円も手元に残らない。
その売却を進めていたのは、銀行の紹介するM不動産だった。
売却先、売却金額などN酒店の意向は無視されていた。
N酒店が無知で何もしてこなかった以上、銀行に文句のつけようがない。
しかし、これでは一家が途方に暮れてしまい、親戚からも見放されてしまう。そのような状況の時に、経営講座終了後に相談してきたのであった。
交渉方法
①紙頼み交渉
銀行からの書面をみると、銀行の強引なやり方にも非があったので、質問状を送った。そうしたら幸いなことに返答があった。
その返答もあいまいであったので即、
質問状を送った。
なにしろ、返答はその日の夜中に書き、N酒店の息子が早朝、パソコンで書面化して送るのである。
これを2週間程、一日おきに繰り返すと根負けした形でこちらの主張を聞いてくれた。
結論として、当方の不動産業者に任意売却を任せ、その売却金額で担保を外してくれる約束を取り付けることになった。
②懇意の不動産業者により売却
そしてすぐ銀行紹介の不動産業者を断り、私の知り合いの不動産業者に依頼、N酒店の立場に立って任意で売却するよう頼んだ。
しばらくして購入者が決まった。
売却金額は全額返済に回ってしまうので銀行提出用の売買契約書と正式なものを2通作成。
N酒店へお金が残るようにした。
こうして個人的に借りていた兄弟や友人に返済し、息子と父の二人は2DKのアパートへ移り住むことが出来た。息子は全く違った職種の会社に勤め、親子二人で楽しく暮らすようになった。
「倒して産む、倒産」
による人生の再建だ。
その後
そして一段落ついてやれやれと思っている時に、売却を依頼した不動産業者
から私に、
「N酒店からお金を渡したいと頼まれた」
と言ってきた。
私の日当は無理をするな!と断っていたので悪いと思ったのか、渡してほしいと言ってきたのである。
そこまで言って下さり、
ありがたく頂いた。
余談だが、在庫を整理する時、棚に売れ残りの高級ウイスキーが並んでいたので冗談で「あのお酒を飲みたいな」と言っていたら本当に持ってきてくれた。
高くてもったいないのと、思い出が詰まっているのでそのまま棚に飾ってある。
再建コンサルタント:古川益一のコメント
金融機関とのお付き合い
「銀行にだまされた」
とよく耳にすることがあります。
それは銀行内部の仕組みを知らない人のセリフです。
銀行は、
窓口→融資担当者→支店長→本部融資役員
の順に上がっていき、それぞれ精査されます。
すべてがOKして始めて融資が実行されます。
又、回収が始まります。
それぞれ担当者が味方になるか、敵となるかによって結果は大きく違ってきます。
従って、担当者とは常に報告を忘れず、信頼を得ておくことが社長としての大切な仕事です。
そして担当者は、常に上司に対し報告をしなければなりませんが、これも面倒な仕事です。
いつも現状を報告、担当者の仕事を軽くしてあげることも忘れてはならないものと思います。
この事例は銀行に対する配慮に欠けたため担当者を感情的にさせ、見放されてしまったために強硬手段に打って出られてしまったものです。