民事再生申請中の再建を途中で断念

依頼内容

民事再生申請中の会社から、民事再生を成功させるために社内改革を依頼された。

経緯

民事再生

大阪府の配管工事会社で、社員90人年商50億円の会社だった。

私が相談を受けた時には既に民事再生を申請してしまった後で、弁護士から民事再生手続きの指導に沿い経営していた時だった。

私はもともと、民事再生については疑問視をしていたので、出来れば中止したいと思いメイン銀行に問い合わせをしてみた。

民事再生により、もっとも迷惑をかけるのは銀行なので、話し合いにより円満に解決していこうと思ったからだった。

しかし答えは、にべもなく

「引当金は積んであるからどうぞやって下さい」

との冷たい答えで完全に見放されていた。

それもその筈、その銀行は借入金全額35億円を肩代わりし、且つ銀行から経理担当を出向していたにも拘らず、売上をごまかし、利益が出ているような形を取り、2年後に民事再生である。

怒るのも当然だった。

再建方針〈安定成長への基礎づくり〉

既に民事再生手続きが進行中であり、借入金を90%程度まで減額、その残った10%を3年間で返済する方針になっていた。

弁護士と打ち合わせを重ねながら、必要書類を作成していきながら経営基盤を作り上げる方針とした。

再建方法

再建方法

①社内改革着手

そこで、民事再生手続きを進めながら社内改革に着手した。

1.再生支援室設立

再生の為の組織を作り、私が室長となり補佐に社長の長男を置いた。

長男は大学で経営学部を首席で卒業しており優秀だったので、教科書の経営学書を会社に持ち込み、会社の立て直しと同時に経営学の実践勉強を始めた。

経営学は実践と同時に勉強すると、たちまちのうちに理解力が向上するので一石二鳥だった。

2.役員全員の報酬の減額

取締役5人の報酬を一気に一律15万円として、社員にその覚悟を示してもらった。

3.社員総会と社員の声の吸収

社員全員を一同に集め、これからの再建方法、計画など計画書を提示しながら意思統一を図った。

同時に無記名のアンケートで全員の声を吸収、全てに答えた。

4.事業部制の確立

事業を4部門に分け、事業部長を新しく任命、
責任と権限を与えた。

同時に事業部長は再生支援室の一員となり、再建の中心的な役割を持たせた。

5.社内報の発行

報連相運動を徹底して促進。

その基礎として社内報を新聞型式でA3、2つ折り4頁として発行、社員全員で情報の共有を計った。

このようにして社内改革を行いながら、社外の外注業者との協力関係を推進していった。

②民事再生への反発

民事再生による再建では、協力会社からの協力は得られないことを実感させられた。

「あんたは民事再生で借金が無くなっていいよ。俺達はどうするんだよ。金もくれずに働けないじゃないか!」

とのキツイ一喝である。

これでは原価の削減など出来ない。

業者と一体とならなければならないのに、業者の身になってみると身勝手も甚だしいと映っても仕方がないことだ。

私は、未払い金や手形不渡りについては100回払いをお願いし、
翌月からは現金払いを約束してきた。

手形支払いの場合、当月分の入金は5ヵ月後になる。

それが当月分は翌月全額入金となり、不渡り分約5ヵ月分の1%、合わせて105%が入金となる。

今までよりも5%も上乗せされて入金になるのだから従来よりも好条件になり手形不渡り後の取引についても納得してくれ、協力してくれるものである。

しかし民事再生を使うと、90%もカットされ、残った10%を3年もかけて払うのだから協力は得られず、憎まれてしまう。

しかし、そのような逆風の中でも少しずつ怒りを解消させながら、地道に再建へ歩み始めていった。

③粉飾経理発覚

決算書や直近の試算表を見ても、困ったことに収支が把握できないのである。

数字上ではそれほど赤字ではないのに、
資金が完全に不足している。

経理課は5人いるにも拘らず、把握出来ないのである。

つまり、それぞれが分業して計算しているために、全体が把握できない状態に陥っていた。

そこで5人の中で最も優秀な若い社員一人を抜擢し、
集中して財務内容を調べさせた。

すると分かったことは、各事業部がそれぞれ売り上げは計上しているのに、仕入れなどの原価を手形で支払い、帳簿に載せずごまかしていた。

このやり方では、手形の決済日までの約5~6か月間の間は破綻しないのである。

一応、財務諸表はしっかりしているので、意図的にごまかされるとなかなか真実が掴めない。

工事伝票や実行予算表などから、一つ一つ丹念に調べていくと実態が浮かび上がってきた。

いずればれてしまうことだが、あまりに社長の要求が強いために事業部長がごまかしていたのだった。

ごまかさないまでも、毎月の収支を資金繰りで集計してしまっていた。

再建応援を辞退する

ところが3ヵ月程経過したとき、
社長がコンサルタントを連れてきた。

そのコンサルタントの言うには、民事再生により90%も減額した10%の残金をさら

に3年後、ほぼ0にしてしまう計画を披露し、社長はその話に乗ってしまったのである。

私は、そこまで自分のことしか考えていない社長に従うことはできず、その時点で再建のお手伝いを辞退させて頂いた。

同社のその後

破産

その後、同社は約1年後に全てを亡くし、
自宅も無くしてしまった。

最悪なのは、長男を社長にしたためにそのプレッシャーに負け、うつ病となってしまったのである。

借金が多い場合、借金や負の遺産を無くしてから継がせなければならないのに、長男に父親の責任を押し付けてしまったのだった。

再建コンサルタント:古川益一のコメント

古川益一

法律を使った借金踏み倒し私は途中で考え方が合わないとして放棄してしまったが、もっと深く考えるべきであったと反省しています。

「民事再生は法律を使った借金踏み倒しであり、取引業者の理解は得られない。当の本人は犠牲を払わず、そのつけを取引業者や銀行に押し付けるやり方は協力を得ることはできない」

と実感しました。

以来、私は民事再生を勧められても頑として反対することにしています。

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