相談内容
電化製品の販売メンテナンスを軸にした10人規模会社からの相談である。
3年前までは、EC(electronic commerce)販売により5億円近い売上があったが、仕入ルートが途絶えたことにより激減。1/3程に落ち込んでしまっていた。
ある中小企業診断士に診断を依頼したところ、数ヵ月間の診断後の結果、「翌年には倒産止むなし」との結果が出ていた。
また、治療院を併設していて労務費に圧迫され、早期撤退の判断を迫られていた。
これに自信を無くしたS社長から、藁をも掴むような相談があったのである。
経緯
L電化ショップ(L社)は、S社長がコツコツと努力、地元に根を張り社歴も15年を超えている。
8年程前から、家電メーカーや問屋さんからの在庫処分を依頼され、お役に立てればとの思いで、インターネット販売に乗り出したところ、大量安価の仕入ルートにより、大きく売上を伸ばした。
しかし数年後、主軸メーカーが経営方針を突然転換、安価な商品を仕入れる事が出来なくなってしまった。
一社集中仕入ルートの恐ろしさが現実となり、赤字決算に転落、金融機関の信頼もなくなり、資金繰りが困難になり、将来の光が見えないでいた。
診断結果
L社は電化製品の他、鍼灸治療院など4部門で経営していた。
- まちの電気屋さん「電気」
- EC販売「全国への通信販売」
- 鍼灸治療院「からだ」
- エアコンクリーニング・リフォーム「住まい」
この4つの部門を精査したところ、社内改革により再建出来ることが判断できた。
EC販売からは理念と方針に合わないため、撤退しながら3部門体制にすることが考えられた。
要は将来の道筋を描くことが出来れば、それ程無理なく再建は可能と判断した。
改革方針
3事業部門の自立と調和
電気、からだ、住まいの3部門を分け、調和を保ちながらお互いに助け合い融和する事により、総合力を発揮する方針とした。
(1)経営理念の確立
地域と共に歩むことを理念に込め、「感謝と調和を大切に地域に寄り添い歩む」とした。
(2)経営方針の再確認
S社長は信念として「利他の心」を座右の銘としていた。そこで、経営方針を心と形の2つを作ることとした。
(3)各部門計画 「各部門の調和により、地域社会に貢献する」
1.営業活性化計画
①地域に密着、地元の皆さんに広く深く触れ合うことを営業の基本とした。
- お客様感謝の集いの定期開催
- 地域ボランティアの参加
- お年寄り住まいとの積極的な触れ合い
②「お客様が楽しくなるお店づくり」をテーマにお客様を迎えることとした。
- 入口付近のディスプレイを工夫する
- 商品陳列の工夫と価格表示をわかりやすくする
- 整理整頓を重んじ清潔感を大切にする
- 笑顔と快活さで、お客 様に応対する
- 事業部全体で商品知識のレベルアップを目指す
- お客様に楽しみを与えるイベントの実施
- お客様サービス係の新設(経理の合理化により余った人員を配した)
2.財務健全化方針
①経理の一本化
今まで、それぞれの事務処理を3人で分担していたため、全体の収支が分からないでいた。決算をしてから、その一年間の収支内容が、やっと分かるというものだった。
完全な結果計算であり、予算管理が出来ていなかったのである。
そのため、経理を一本化、一人でも出来るように経理の合理化を考えて作り直した。
②毎月の収支状況の把握
3部門毎の収支を把握し、翌月のPDS会議で発表することとした。これにより、各部門の収益状況が明確となり、具体的な改善目標を作ることに繋がった。
③予算管理の徹底
全ての販売に対し、事前に予算管理を徹底することにより、売上利益に真剣に取り組む習慣を身に付けていった。
再建計画書の作成
このような方針と計画を樹立。社員の気持ちを確かめ、即、再建計画書を作成。金融機関に報告。会社の将来性をアピールした。
社員に対しても常に計画書を提出し、ガラス張りの収支報告をした。
また「明るい未来」を掲げ、理念と方針に沿い社員一丸となり、新幹線型経営を目指した。
改革の結果
それぞれが機能し、少しづつ、業績が回復し始めた。
①各事業部毎の収支が明確になったことにより、それぞれが自覚して黒字化に向け工夫を凝らすようになった。
② 3人の経理が1人で行うことにより、効率化と素早い収支報告が可能になり、前月の各事業部と合計の収支状況を翌10日迄には完全に集計出来るようになった。
③ 税理士の見方が変わった。
今までは財務がわからないために税理士にお任せだったが、S社長自身の財務に対する理解が進むにつれ、真剣にアドバイスしてくれるようになった。
④ 銀行の対応が変わった。
経営計画書を提出したばかりでなく、毎月収支報告書を提出することにより、全幅の信頼を頂くことになり、借入が簡単に出来るようになった。それどころか、借入先5行から競うように融資を頼まれ、使い道のない資金が貯まり、困るようになった。
このようにして順調に歩み始め、当年度の決算を黒字にすることが出来た。
今後の計画
S社長は順調な経営を取り戻すにつれ売上拡大を考えたが、そのひずみが出ることも気付いてきた。
約1年間の試行錯誤の末、売上拡大は一切考えず、自分自身の器の成長と共に自ずと会社は大きくなっていくことに気付いたのだった。
「売上は伸ばすものではなく、伸びるものである」
経営の真理の実践である。
そのように思った途端会社の状況は見違えるように良くなり、一心同体となった経営を続けている。社員一人一人が、のびのびと働くようになったからであった。
こうしてS社長は社員と楽しく経営することに夢を抱くようになった。