赤字旅館の再建

相談内容

前社長から、赤字経営の旅館を引き継いだばかりの社長から、再建の相談を受けた。

再建の経緯

ある山間の秘湯と言われる温泉郷はさびれ、閉館が相次いでいた。

5代目のT社長はまだ若く手探りの状態だった。

決算書などを一通り精査すると、財務構造的には短期間に解決できるような簡単なものではなく、巨額の借入金残高と累積損失は、売上高の3倍にも達していた。

再建方針【3ヵ年黒字化計画】

黒字化計画

当旅館を苦しめているのは、前社長の遺した巨額の借入金と滞納税金であった。

まず、銀行に金利軽減と返済額減額猶予を交渉した。

下がり続ける売上高をどこまで下がるのかを予測。

その売り上げで経営が成り立つように経費の削減と余分な不動産の処分などにより、何とか営業利益を確保。

経営続行の可能性の目途を付けた。

そこで、様々な問題は長期的な視野に立ち考えることにして、まずは基本に立ち返り、盤石な経営基盤の構築により単年度の償却後黒字化を3年間で達成する計画を立てた。

改革方法

経営理念

① 経営理念の確立

全社員の心を一つにするために経営理念を作成した。

「理念なき経営は滅びる」

と言われるように経営理念は無くてはならないものである。

そして、

経営の目的は経営理念を実現すること

とし社員全員に徹底した。

② オンリー1、ナンバー1を目指す

この温泉町でどこにもないオンリー1を作り、結果的に経営体質に於いて地域ナンバー1を目指すこととした。

(1)強みと弱みを分析

強みは秘境と言われるように圧倒的な大自然と豊富な湯量による源泉掛け流し温泉。

弱みは零下10度にもなる寒さと、コンビニひとつ無い不便な地域の為の求人難などが挙げられた。

(2)新しい形態の宿泊施設への転換=ブランディングの断行

中途半端な改革ではなく、全てを見直すこととした。

ブランディングやCⅠ計画と呼ばれるものである。

  • 旅館名の変更と温泉のテーマパーク化
  • 宿泊形態の多様化(泊食分離、泊、休、同等化)
  • 社員の意識改革(経営者意識)

源泉掛け流し貸切温泉は、通常30分単位で有料料金としている。

それを当館では24時間フルタイムで貸切自由とした。

しかも、バスタオル、浴衣まで複数用意。更に18ヶ所全湯制覇されたお客様には記念品を差し上げている。

完全な異質化である。

(3)オンリー1の確立

オンリー1の戦略を確立するため、次々と手を打っていった。

  • ホームページの充実
    集客方法をHPに絞り込み、HPを充実させると同時に情報誌などの広告宣伝費は最小限に省いた。
  • 利益率よりも稼働率を優先
    当面の利益よりもいつもお客様で一杯になるよう稼働率アップを考えた。
  • 山間の大自然との調和による一体化をイメージした
  • リピート客の重視
    いつも来館して下さるリピーターが増えることが何よりの喜びとした。
  • 当館を基地としたミニ旅行を企画した
  • アンケートの重視
    お客様からのアンケートに書かれた声を徹底的に重視、改善に役立てた。

これらにより、他の旅館との差別化を進め、オンリー1を目指した。

③ 組織の改革

  • このオンリー1戦略を確実なものにするため、組織改革を行った。予約、受付、接客、料理、施設管理それぞれに責任者を置き、責任分野を明確にした。
  • 社員の福利厚生を整えた。毎月のお誕生会を開くなどやる気を促した。
  • 全社員が同じおもてなしが出来るよう、マニュアルにて教育、おもてなしの心を磨いた。

④ 運営方法の改革

  • PDS(計画、実行、反省)の経営サイクルを速く回すよう全員が努力した。そのために毎月の定例会議を重視、計画、実行、反省の場とした。
  • 消極策を積極的に実行した。借入金も多額となっており、資金の余裕も無く、借入も出来る状態ではないため、とにかく基本的なことから積極的に実行した。
  • 宿泊料金は利益率から回転率への考え方に基づき、多くの人が来て下さるよう適正料金を求め続けた。
  • 経費の削減については ムダ・ムラ・ムリを無くす習慣を植え付けた。

特にムダは社員の力が100%発揮していないとすると発揮していない部分がムダ、さらにお客様が100%満足されなかった場合、その満足されなかった部分がムダと認識させるようにした。

以上の改革により、内部的には普通の旅館経営から企業として永続的に発展しうる体制を確立していった。

外部へのイメージ的には思い切った転換を図ったが、
内部の改革はとても地味なものだった。

5代目社長はまだ若くて勉強熱心だったので、社長業と共に経営学を学びながら経営の基本に沿って改革をしていった。

改革の結果

温泉宿の改革

これらにより、オンリー1は成功。

売上は翌年20%も伸び、黒字決算を達成することが出来た。

3年目は、売上増に対応するための社内の対応が追いついていないため、人件費率の適正化。

一般管理費の削減等により、より強固な経営基盤を築き、地域ナンバー1を目指してゆく。

再建コンサルタント:古川益一のコメント

古川益一

オンリー1とは、同業他社との異質化を図ることであり、お客様からの注目を浴び売上は増えていきます。

同時に内部の充実により地域ナンバー1を目指すことになります。

ナンバー1とは、その地域内で収益性、健全性など内容でトップに立つことであり、全ての会社の経営方針として当てはまるものです。

Membership

ご入会フォームに必要事項をご記入の上「送信」ボタンを押してください。